はじめに-小原研究室から日本と世界を見つめる
 
 国際関係論においては、国際秩序は覇権国家の絶対的衰退(国力の低下)と相対的衰退(台頭国家の挑戦)によって不安定化し、グローバル戦争に勝利した国家による新たな秩序が形成される、という理論がある。冷戦後、唯一の超大国として国際秩序の中心に位置し、その維持に当たってきた米国が、イラクやアフガニスタンでの戦争と国際金融危機によって国力を弱め、中国など新興国の台頭もあって、衰退期に入ったとの指摘は少なくない。ワールド・パワーの興亡を「長期サイクル理論」として提示したモデルスキーや「覇権安定論」を主張したギルピンなどの論を待つまでもなく、東アジア地域のパワー・バランスが変化しつつあることは否定出来ない。
 ポール・ケネディは、「大国の興亡」を著し、その中で大国はなぜ没落するのか、その原因を検証し、「大国の経済成長の速度の差が、相対的な関係の中で、それぞれの国の興亡を決定するのである」 と結論付けた。そして、「力と富が他国よりも大きければ」、ことはうまく運び、「力と富が他国よりも小さければ」、問題が生じると断じた 。そうだとすれば、日本や米国は力と富の再建に全力を挙げると同時に、外交と内政の総力を挙げて安定した地域秩序構築への速やかな協調行動を推し進める必要がある。
 東アジアの地域秩序造りをどう進めるか。その要諦は、第一に、この地域の平和と繁栄に大きな役割を果たしてきた米国の参加を確保し、新たな秩序造りに向けて協働することであり、第二に、台頭中国がもたらす経済的好機(利益)と政治・安全保障的挑戦(リスク)のジレンマにどう対応するか、という問題意識を持って中国の経済、社会、政治の変化をウオッチし、その行方を展望しつつ、「戦略的互恵関係」に基づく対中外交を東アジアでの地域秩序造りに連動させていくことである。
 激増する中国人の日本観光に見られる如く、中国は世界に開かれてきた。世界からどう見られているかに気付き、どう振る舞うべきかを考える中国人も増えている。中間層の増大に見られるとおり、中国は豊かになった。その豊かさが海外との交易や投資によって生まれていることを実感し、そして豊かさの背後には環境破壊や地球温暖化といった国境を超えた問題が存在し、深刻化していることに注意を払う中国人も増えている。
 そうした変化が続き、中国が国際社会との協調を重視する「責任ある大国」になってくれることを心から願う。
 そんな願いを込めて、私は2009年に「日本はどこへ向かうのか?」と題する著書を中国で出版した。
平易な中国語で明快な論旨を心がけた著書の中で、私は、次のことを強調し、中国の読者に訴えた。第一に、いずれの国家も一国だけで存在しているのではなく、主権国家が並存する国際社会とその中で生まれる国際関係を前提として存在しており、自国に国益があれば他国にも国益がある。そうした長く変わらぬ国際政治の現実の中で、武力や武力の威嚇ではなく、平和的手段によってその調整を図る「賢明な外交」が重視されるべきである。
 第二に、グローバル化に伴って経済相互依存の高まりや国境を越えた諸問題の生起が顕著となる時代にあっては、金融や貿易を安定的に発展させ、テロ・環境・感染症・国際犯罪など共通の課題に取り組むため、国際協調や国際協力を進めることがかつてなく重要になっている。
 自国の国益だけを居丈高に主張するだけでは近隣諸国や国際社会との緊張や摩擦は増大し、地域や世界が直面する共通の課題の解決も遠のく。地域と世界の平和と繁栄という大きな利益と調和する形で自国の国益を位置付けていくべき時代に我々は生きている。「国際益」や「地球益」という視点を取り入れた「開かれた国益」を目指すことがすべての国家の政治家や国民に求められている。「戦略的互恵関係」の構築を目指す日中関係は、まさにそうした視点に立って、地域、そして世界の日中関係として発展させていかなければならない。
 私は拙著でそんな外交論と国益論を展開した。
当時、私は外務省のアジア大洋州局で主として対中関係やアジア太平洋全般の外交を担当していたため、拙著は現役外交官の日本外交論として中国国内で大きな反響を呼んだ。主要な新聞や雑誌が拙著を取り上げ、書評や論評を掲載した。国際関係論の専門家による国益論議も高まったと聞いた。
 残念ながら、その後の中国は私が願った方向には動いていない。過剰なナショナリズムに流されやすい「インターネット世論」には自国の国益を声高に主張する強硬な姿勢が目立ち、これが実際の外交を掣肘する。拙著の「開かれた国益」の考え方に理解と支持を示してくれた「リベラリスト」(中国では「右派」)の国内基盤は盤石ではなく、その影響力には陰りも見られる。
 かつて外交は「宮廷外交」の言葉に象徴される通り、一握りの人達によって行われていたが、交通・通信手段の発達、就中インターネットの普及によって広範な大衆を巻き込む政治的営みとなった。時に内外の様々な利益や感情が絡み合い、言葉や映像が飛び交い、複雑な展開を見せる。外交に携わる者は背後から弾が飛んでくることも覚悟しながら、彼我の国益や立場のぶつかり合う最前線で接点を見出すべく粘り強く交渉する。そんな経験を私もした。そして、中国側にもそのことを理解する人達がいる。ある専門家は「外交には理性が必要である」と強調して、こう述べた。
「世界は巨大なシステムであり、一つの国家は外部世界との複雑な相互作用の中でこそ自らの存在と発展を実現することができる。」、「如何なる国家も一方的に自らの価値や利益を追求することはできない。」、「強硬外交を続ければ孤立に陥るだけだ。」
こうした理性ある声が支持され、広がりを見せることを願うばかりである。
 振り返れば、近代日本は「黒船」と「敗戦」という国家存亡の危機を二度乗り越え、「奇跡」と評されるその後の発展を勝ち取った。しかし、今、日本は「第三の危機」の真只中にいる。第一に、「失われた10年」を繰り返し、活力を失った「経済・社会の危機」である。この間の日本の経済成長は、年平均で1%にも及ばず、GDPはアメリカの1/4以下、中国の1/3に落ち、世界シェアも15%から5.5%にまで低下した(2016年のIMF予測)。その結果、国家予算の半分以上が国債で賄われ、国の借金は1千兆円を突破した。国民一人当たり800万円以上の借金を負っていることになる。地方自治体を含めた日本全体の債務残高はGDPの2倍以上に達し、先進国中最悪である。このままではその巨額の付けは私たちの子供や孫が背負うことになる。若い世代の将来への漠たる不安は社会・経済の活力低下となって現れる。ある調査では、80%以上の若者が将来は暗いと回答した。やれ内向きだ、やれ気概がないと若者をなじる前に、希望を持てない社会にしてしまった私たちの責任を問い、何が問題で、何をすべきかを自問自答すべきだろう。力強い政治のリーダーシップにより国家のビジョンと戦略を打ち立て、果断に実行する。その覚悟を国民として共有する。痛みも甘受しよう。決して目先のポピュリズムや浅薄なワイドショーを蔓延らせてはならない。
 第二に、中国の台頭が生み出す「政治・安全保障上のリスク」である。中国は、「平和発展」を標榜する一方で、軍事力を増強し、海洋進出を積極化している。地域のパワー・バランスや国際秩序が動揺し、日本を取り巻く安全保障環境には不透明感や緊張感が漂う。強大化する中国にどう向き合い、日本と東アジアの平和と繁栄に資する秩序を如何に構築するか、日本外交は大きな試練に直面している。
「第三の危機」の中で日本がなすべき選択は何か?
私の答えは、第一に、日本を開き、アジアが直面する課題を解決する新産業を発展させること‐すなわち、アジアの「ハブ国家」、「課題解決支援国」となって成長を取り戻し、経済社会を再生する、第二に、外交の基軸である日米同盟とアジア重視を共鳴させつつ、中国台頭による地域秩序の変化に戦略的に対応することである。
 

 講演   2016年3月14日 徳島クラブ 『世界情勢をどう見るか』

雑誌対談 2016年3月15日、16日、17日

 Diamond Online 対談 3回シリーズ

第1回 「中国夢」に見え隠れする習近平のジレンマ 
       http://diamond.jp/articles/-/87866

第2回 「共産党の優位性を保ち続けながら、中国は構造改革に踏み切れるのか」
       http://diamond.jp/articles/-/87868?display=b
第3回 「中国への上から目線でない、戦略的交流が日本の国益につながる」
http://diamond.jp/articles/-/87869

                       
講演  2016年4月20日 「外交とは何か?」 東京大学駒場キャンパス
    (教養学部進学選択シンポジウム:「私はどのように進路を決めたか?」) 
  シンポジウム出席 2016年5月28~29日
        上海フォーラム 報告「国際秩序と外交」
講演 2016年5月30日 「国際秩序と日中関係」 復旦大学
 
 
 国際ワークショップ参加 9月29日・30日 豪州国立大学vs.東京大学
国際フォーラム参加 11月4日 Asia Economic Community Forum(仁川)「日中関係」についてプレゼンテーション
 日韓セミナー(ソウル国立大学)出席 5日
 
大統領選挙後のアメリカ訪問 11月10日~13日
  カリフォルニア大学サンディエゴ校訪問  講演(「トランプ氏の勝利と日米同盟・日中関係」)及び専門家との意見交換
復旦大学でのシンポジウム出席 11月26日 日中関係についてプレゼンテーション
 
 五大学ワークショップ出席 12月2日・3日 東アジアの安全保障についてプレゼンテーション
立命館大学にて講義 12月9日 「トランプ大統領のアメリカ外交はどうなるか?」
2017年 
寄稿 1月9日 The Japan Times  
"East Asia in the Trump era"
 http://www.japantimes.co.jp/opinion/2017/01/08/commentary/japan-commentary/east-asia-trump-era/#.WJLir1RKOnP
寄稿 1月27日 The Japan Times                             ””East Asia, China and Japan in the age of Donald Trump”  
 http://www.japantimes.co.jp/opinion/2017/01/26/commentary/japan-commentary/east-asia-china-japan-age-donald-trump/#.WJLk5VRKOnM